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事業承継の進め方⑤ 事業承継のステップ3

こんにちは。所長の山本誉です。

大阪、兵庫、宮城では、感染拡大防止のため、緊急事態宣言に準じた措置を取れる

「まん延防止等重点措置」が取られることとなり、

また飲食店等の方々が我慢の時期に入りましたね。


今回の措置が早期に解除されないと、本当に倒産・廃業する事業者の方々が、

多発するのではないかと思い、感染の早期収束を心より祈念しております。



さて、今回は、前回提示した下の図表の5つのステップについて、

ステップ3~5までについて、説明したいと思います。























(3) ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

親族内承継においては、相続税対策に重点が置かれすぎるあまり、事業とは無関係な

資産の購入や、節税を目的とした持株会社の設立等により株価を意図的に低下させるなど、

中小企業の事業継続・発展にそぐわない手法が用いられる場合があります。


しかし、事業承継は、経営者交代を機に飛躍的に事業を発展させる絶好の機会であること、

経営者は、次世代にバトンを渡すまで、事業の維持・発展に努め続けなければならないこと等を

考慮すると、親族内に後継者がいる場合であっても、現経営者は経営改善に努め、

より良い状態で後継者に事業を引き継ぐ姿勢を持つことが望まれます。


近年の親族内承継の大幅な減少の背景には、事業の将来や経営の安定について、

親族内の後継者候補が懐疑的になっていることなどが挙げられています。


こうしたことからも承継前に経営改善を行い、後継者候補となる者が後を継ぎたくなるような

経営状態まで引き上げておくことや、魅力作りが大切です。


「磨き上げ」の対象は、業績改善や経費削減にとどまらず、商品やブランドイメージ、優良な顧客、

金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、知的財産権や営業上のノウハウ、法令遵守体制

などを含み、これらのいわゆる知的資産が「強み」となることも多いのです。


また、「磨き上げ」は、自ら実施することも可能ですが、対応が多岐にわたるため、

効率的に進めるために士業等の専門家や金融機関等の助言を得ることも有益です。



(4) ステップ4-1:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)

① 事業承継計画策定の重要性

ステップ2、ステップ3記載のとおり、まずは自社を知り、そして自社を強くすることが、

事業承継の準備においては重要です。


一方、具体的に事業承継(資産の承継・経営権の承継)を進めていくにあたっては、

自社や自社を取り巻く状況を整理した上で、会社の10年後を見据え、

いつ、どのように、何を、誰に承継するのかについて、具体的な計画を立案しなければなりません。

この計画が「事業承継計画」です。


事業承継計画は、後継者や親族と共同で、取引先や従業員、取引金融機関等との関係を

念頭に置いて策定し、策定後は、これらの関係者と共有しておくことが望ましいです。

こうすることで、関係者の協力も得られやすく、関係者との信頼関係維持もできます。


さらに、後継者や従業員が事業承継に向けて必要なノウハウの習得や

組織体制の整備などの準備を行うことができるなど、様々な利点があります。


なお、事業承継計画の策定にあたっては、成果物としての計画書を作成することを

目標にすべきではなく、策定プロセスやその活用による経営者自身と

その関係者にとってのメリットを最大化してこそ、意味があるものです。



② 事業承継計画策定の前に

事業承継計画は、上記のとおり、資産や経営権をどのように承継するかを基本とするものです。

しかし、事業承継の根幹のひとつとして、自社の経営理念を承継することの重要性

忘れてはなりません。


いわゆる老舗企業において、時代が変わっても受け継いでいく想いを大切にしている例が

多いことからも、資産や経営権のみならず、会社の理念や経営者の想いの伝承の重要さが

示されています。

その意味でも、事業承継計画の策定に先立ち、経営者が過去から現在までを 振り返りながら、

経営に対する想い、価値観、信条を再確認するプロセスは、 事業承継の本質といえます。


可能であれば明文化し、後継者や従業員と共有しておけば、事業承継後もブレることのない

強さを維持できるでしょう。


なお、事業承継「計画」を策定するというイメージから、現在から将来に向かっての計画のみを考えるものと認識されがちです。


しかし、経営理念の承継の重要性を踏まえると、

そもそも創業者は「なぜその時期に」「なぜその場所で」「なぜその事業を」始めたのか、

その時の事業状況・外部環境がどうであったのか、その後の変遷の中で転機となることがらが

生じた状況がどうであったか、といった振り返りから始めることが有効です。


状況に応じて、見える化や磨き上げから事業計画、事業承継の実行までを含んだ

事業承継計画を策定する場合も想定されます。



③ 事業承継計画の策定

イ) 中長期目標の設定

自社の現状とリスク等の把握を経て、これらを基に中長期的な方向性・目標を設定します。

例えば、10年後に向けて現在の事業を維持していくのか、拡大していくのか。


現在の事業領域にとどまるのか、新事業に挑戦するのか、といったイメージを描くことが

必要です。


この方向性に基づいて組織体制のあり方や、必要な設備投資計画等を検討し、

さらに、売上や利益、マーケットシェアといった具体的な指標に落とし込みます。

この過程においては、中長期目標において想定している期間の中で、

いつ事業承継を実行するのかを織り込む必要があります。


当然、事業承継後に目標達成にコミットするのは後継者ですから、

後継者とともに目標設定を行うことが望ましいです。


その際、事業承継後(ポスト承継)に後継者が行う取組についても、

中長期目標に織り込むことができれば、事業承継を契機とした再成長も期待できます。



ロ) 事業承継計画の策定

設定した中長期目標を踏まえ、資産・経営の承継の時期を盛り込んだ事業承継計画を策定します。

具体的な策定プロセスの概要は以下のとおりですが、


成果物としての事業承継計画書の作成自体を目的とするのではなく、策定プロセスに

おいて、現経営者と後継者、従業員等の関係者間で意識の共有化を図ることに重きを

おくことが重要です。


また、ステップ2(経営状況・経営課題等の把握(見える化))を十分に実施することが、

実効的な事業承継計画の策定の前提となることに留意すべきです。


ⅰ) 自社の現状分析

ステップ2(経営状況・経営課題等の把握(見える化))を通じて把握した自社の現状をもとに、

次世代に向けた改善点や方向性を整理します。


ⅱ) 今後の環境変化の予測と対応策・課題の検討

事業承継後の持続的な成長のためには、変化する環境を的確に把握し、

今後の変化を予測して適切な対応策を整理することが望ましいです。


ⅲ) 事業承継の時期等を盛り込んだ事業の方向性の検討

自社の現状分析、環境変化の予測を踏まえ、現在の事業を継続していくのか、

あるいは事業の転換を図っていくのか等、事業領域の明確化を行います。


さらに、それを実現するためのプロセスについても具体的なイメージを固めていきます。

その中には、前述のとおり事業承継の時期や方法を盛り込みます。


ⅳ) 具体的な目標の設定

前述の中長期目標の内容について、売上や利益、マーケットシェアといった具体的な指標ごとの

目標を設定します。


ⅴ) 円滑な事業承継に向けた課題の整理

以上の分析・整理を踏まえ、後継者を中心とした経営体制へ移行する際の具体的課題を整理

します。


ここでは、直面する課題に対して考え得る必要なアクション(例えば、専門家への相談や、資金調達)についても盛り込んでおくと、より実効的な計画策定が期待できます。


(5) ステップ4-2:M&A等のマッチング実施(社外への引継ぎの場合)

後継者不在等のため、親族や従業員以外の第三者に事業引継ぎを行う場合、

売り手はステップ1~3の行程を経た後、買い手とのマッチングに移行します。

以下では、M&Aの実行に向けた事前準備に簡単に触れておきます。


① M&A 仲介機関の選定

M&Aを選択する場合、自力で一連の作業を行うことが困難である場合が多いため、

専門的なノウハウを有する仲介機関に相談を行う必要があります。

仲介機関の候補としては、公的機関である事業引継ぎ支援センターを活用することが

考えられます。


また、M&A専門業者や取引金融機関、士業等専門家等も存在しており、

選定にあたっては、日頃の付き合いやセミナー等への参加を通じて、

信頼できる仲介機関を探し出すことが重要です。


なお、個人事業主については、事業引継ぎ支援センターにおいて、

起業家とのマッチングを支援する「後継者人材バンク」事業を実施しています。


② 売却条件の検討

M&Aを行うにあたっては、「どのような形での承継を望むのか」について、

経営者自身の考えを明確にしておく必要があります。


例えば、「会社全体をそのまま 引き継いでもらいたい」、「一部の事業だけ残したい」、

「従業員の雇用・処遇を 現状のまま維持したい」、「社名を残したい」等が考えられます。


仲介機関に事前に売却条件を伝えた上で、条件に合った相手先を見つけることが

最善の方法です。


(6) ステップ5:事業承継の実行

ステップ1~4を踏まえ、把握された課題を解消しつつ、事業承継計画やM&A手続き等に沿って

資産の移転や経営権の移譲を実行していきます。


実行段階においては、状況の変化等を踏まえて随時事業承継計画を修正・ブラッシュアップする

意識も必要です。


なお、この時点で税負担や法的な手続きが必要となる場合が多いため、弁護士、税理士、

公認会計士等の専門家の協力を仰ぎながら実行することが望ましいです。



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